獣~けだもの~
寝転んだまま、差し出された笛を受け取ろうと、弁慶が屈んだ時だった。
笛が握られた、と感じた瞬間。
遮那王は、腕を横に強く引いた。
と。
いきなりの事に、体重の軽い弁慶は、身体の均衡を崩して、たたらを踏んだ。
その期を逃さず、遮那王は、飛び起きたかと思うと、手首をつかみ、そのまま弁慶を引き倒す。
「……っ!」
あっという間の、形勢逆転だった。
こうなると、技量勝負でなくただの力比べだ。
優男の遮那王よりも、さらに華奢な弁慶に勝ち目はない。
「弁慶さま!」
叫んで近づこうとした弥太郎に。
その場を動けば主を殺す、と叫んで遮那王は、弁慶に馬乗りになった。
「なんて、汚い手を……!」
苦しげにささやく、弁慶に、今度は遮那王が笑った。
「そなた、実はまだ。
強すぎて、人に負けたり、なりふりかまわねぇ、喧嘩をしたことが無いのだろう?
どんな汚ねぇ手を使っても、勝ちは、勝ち……と。
そなたは……!」
……そして、遮那王は。
喋っているうちに、気がついたことに目を見はった。