獣~けだもの~
 

 寝転んだまま、差し出された笛を受け取ろうと、弁慶が屈んだ時だった。

 笛が握られた、と感じた瞬間。

 遮那王は、腕を横に強く引いた。

 と。

 いきなりの事に、体重の軽い弁慶は、身体の均衡を崩して、たたらを踏んだ。

 その期を逃さず、遮那王は、飛び起きたかと思うと、手首をつかみ、そのまま弁慶を引き倒す。

「……っ!」

 あっという間の、形勢逆転だった。

 こうなると、技量勝負でなくただの力比べだ。

 優男の遮那王よりも、さらに華奢な弁慶に勝ち目はない。

「弁慶さま!」

 叫んで近づこうとした弥太郎に。

 その場を動けば主を殺す、と叫んで遮那王は、弁慶に馬乗りになった。

「なんて、汚い手を……!」

 苦しげにささやく、弁慶に、今度は遮那王が笑った。

「そなた、実はまだ。
 強すぎて、人に負けたり、なりふりかまわねぇ、喧嘩をしたことが無いのだろう?
 どんな汚ねぇ手を使っても、勝ちは、勝ち……と。
 そなたは……!」


 ……そして、遮那王は。

 喋っているうちに、気がついたことに目を見はった。

 
 
< 21 / 40 >

この作品をシェア

pagetop