獣~けだもの~
「……女、か……!」

 もみ合っているうちに気がついた、思いもよらぬ、弁慶の胸のふくらみに。

 思わず、ぎょっと、遮那王の、思考が止まる。

 その、わずかにゆるんだ遮那王の腕に、力一杯抗って。

 弁慶は、遮那王の下から這い出し、叫ぶ。

「……女だから、どうした!」

 そして、可憐な顔に、怒りの表情を張り付かせたまま、弁慶は怒鳴った。

「わたしだって、誰の下にも居たくはない!
 出来るのならば、自分の手で天下国家とやらを動かしてみたいのに!
 すべてを男に託して、女子(おなご)は、家で待っていろ、だと?
 なぜ、わたし自身が夢を見、追ってはならぬのだ!」

 弁慶の言葉に。

 遮那王は、驚きに見開いていた目を、すぃ、と細めた。

「女子は、儚く、弱い。
 戦いや、争いに向いていないのだ。
 だから、安寧のうちに、一族の発展を望むのだろう?」

「弱い?……はんっ!
 そんなの、唯の言い訳にしかすぎぬ。
 母上は、男に犯され、望まぬ子を……わたしを、産んだ。
 それから、母はずっと世の中に不満を言い続けている。
 物ごころついたときから……わたしを尼寺に、追いやるまで。
 きっと、わたしが寺を焼いて、行方知れずになった、という報が届いたろう、今でも。
 未だに文句を言っているだけだろうよ。
 自分では、何一つ動かぬままで。
 弱い女子だから、仕方がない、と」
 
 言って、弁慶は目を光らせた。

「……わたしは、そんな女になど、なりたくない」

 覚悟さえあれば、いくらでも強くなれるはずだ。

 と、弁慶は、叫ぶ。

 ……しかし……
 




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