獣~けだもの~
「……しかし、女の身では、誰もついては、来ぬのだろう?
 見たところ、唯一の従者の弥太郎でさえ。
 武将の卵に従う、というよりは。
 そなたの身を案じて、ついて来ているように見える」

「うるさいっ!」

「それに、男、だからと言っても別に良いことは無いぞ。
 我とて、御曹司と言われても、結局。
 後ろ盾が無いから、元服でさえ、自分でやらねばならぬ始末だ。
 天下国家の大事、などと、大それたことをやって傷つくよりも。
 街の隅で面白おかしく暮らした方がよほど、賢い」

 肩をすくめる遮那王を、弁慶はぎらり、と睨んだ。

「……だから、京の街を遊び歩いていると?
 男のくせに……
 出自も明らかで。
 起(た)てば、ついて来るものが、いるはずなのに?
 ……判った。
 わたしが、嫌いのなのは、女じゃない。
 試してもみないうちに、何もかもを、諦めるやつだ。
 しかも、賢いふりした大莫迦者なんぞ、特に、大嫌いだ!」
 
 言って、弁慶は、ぱっぱ、と身についた砂を払うと、唾を吐き捨てた。

「お前は、一生そうやって。
 ずっと女の尻でも追いかけてろ。
 そのうち、わたしは一国一城の主になり……いいや。
 天下を手に入れ、お前をせせら笑ってやる!」

「そなた、本気か?
 女子の身で、よくもまあ……」

「うるさい!
 そんなの、とっくに捨てている。
 わたしは、戦う一匹の獣だ!
 それに、何もしようとしないお前よりは、わたしの方が、よっぽと男前だ!!」
 

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