獣~けだもの~
運命の獣
その。
衣川の戦いのだいぶ過去。
月が雲で隠れた闇夜の晩のことだった。
この季節にしては、強い風を避けるように。
あやしい人物が二人ほど、京は五条の大橋のたもとで縮こまり。
何やら、ぼそぼそとささやいていた。
「弁慶さま、本っ当に、また戦(や)るおつもりなんですかぁ~~?」
どうやら、従者らしい。
気の弱そうな声に、弁慶と呼ばれた声が即答した。
「もちろんだ。
お前だって、どうせ主を見つけて仕えるのなら、将来有望なヤツがいいだろう?
ついでに、見た目が良ければそれに越したことがない」
「いやぁ、己(おれ)は。
腕が立ってくれれば、別に見た目なんて気にしませんが……
ああ、将来有望ってところは、良いですね。
……なんとなく、飯の食いっぱぐれがなさそうで」
あくまでも、明るく、能天気なその声に、弁慶は、呆れたように唸った。
「本っ当に、飯の心配しかしないのな。
お前だったら、小者とはいえ、わたしの下にいなくても、どこでだって生きていけそうだ」
「でへへへ」
そう、頭を掻いて笑う声に、褒めているわけじゃねぇよ、とささやいて、弁慶は、言った。