獣~けだもの~
「とにかく、たった一つの命を賭けるんだ。
 莫迦や、弱いヤツに仕える気はない。
 手筈通り、お前が露払いしてくれれば、後からわたしが出て行こう。
 なんて、な。
 今まで、そこまでのやつは居なかったが。
 ……今度こそ、当たり、だといいな」

 と。

 闇にうごめく影が、妙にしみじみと言った時だった。


 ごうっと、ひときわ強い風が吹いたかと思うと。

 今まで、天を覆っていた分厚い雲を、急速に吹き散らせかた。

 そして月が。その優美な顔をのぞかせる。


 やがて。


 今までの暗雲が嘘だったように。

 月光が満ちる頃。

 かすかな笛の音が、辺りに響き渡った。


「来るぞ……!
 では、手筈通りに……」

 薄闇の中。

 二人の影は、顔を見合わせて頷くと。

 それぞれの持ち場に散って行った。
 
 
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