獣~けだもの~
 さて、どれだけの間、笛の音が続いたのだろうか。

 しばらく、ただ美しい笛の音色が辺りに満ちた後。

 一つの声が、つかの間演奏を遮った。

「あのう……もうし……お武家さま」

 ともすれば。

 笛の音にかき消えそうな、遠慮がちな呼びかけに。

 青年は、笛から口を離して、振りかえった。

 見れば、そこに。

 自分と、そう年派も変わらないだろう少年が。

 稚児姿で佇んでいる。

 この稚児もまた。

 風雅、典雅が売りの京の都を探しても、そうは居ないだろうほど美しく。

 艶やかであった。

 稚児は、ただの小者とは言え。

 身につけている衣の上品さ。

 立つ姿の美しさから鑑みて、よほどの高僧か、貴族に仕えているに違いない。

 その稚児姿を見て。

 青年は、ふうわり、と微笑んだ。

 どうやら、二人は顔見知りであるらしい。



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