スタッカート《番外編》
トキ
ほこり臭い軽音部の部室の中で、ずっしりと構える真っ黒なピアノの上。そこに寝転んで放課後を過ごすのが、おれは好きだ。
夕日の熱をはらんだ風が、頬をなでる。横に置いたままのギターのボディに、燃えるような橙が映って―それがとても綺麗だと、ぼんやりと思った。
今日はおそらく、委員会で忙しいほかの部員は来ない。
襲ってきた眠りの波にまかせるまま、大きく伸びをして再び目を閉じて、深い沼にしずもう――と、したときだった。
ガタン…ッ。
おそらく数歩先で聞こえた、物音。
この時間帯なら。
……主は、知れていた。
「のぞき見か。相変わらず悪趣味だな、変態」
起き上がって音のしたほうに目を向けて見れば、硬直したように二本の足を床にぴったりと張り付けて、顔を真っ赤にさせた女―伊上東子。
俺の彼女が、いた。