スタッカート《番外編》
………。
コイツ…。
呆れて、それでも少し悔しくもなって、俺は答えを言わないまま軽音部の部室をしめ、外へと出た。
隣では鈍感すぎるアホが、応えない俺に不満げな視線をよこす。
ああ、くそ。
俺がこの目に弱いってことを―こいつはきっと、知らない。
頭をがしがしと掻いて、もう片方の手で東子の手を探す。柔らかい指先に触れたと同時に、それをつかんで引きよせた。
「お前が来るのを、待ってた」
そのあと驚いたように見開かれた目と、じわじわと赤くなる、柔らかそうな頬。
最悪なことにこっちまで顔が熱くなるのを感じて、溜息を吐いた。
テストだ何だって、やたら忙しいこいつに会える日は少ない。
だけど―もしかしたら、今日はここに来るかもしれない、会えるかもしれないなんて期待してたことは。
絶対に、俺の口からは言わないと決めていたのに。
…やっぱりこいつは
俺にとってはかなりの弱みだったらしい。