−つぐない−
食事も喉を通らなくなり、二日間、会社も休んだ。

轢き逃げのニュースは、その後、目にはしなかった。
どうなっているのだろうか。
いつ、警察が来るかと、心配でしょうがなかった。

車は一週間で帰って来た。
が、次の日、とうとう刑事が二人、やって来た。

「一週間前、0号線で、轢き逃げがありまして、その轢き逃げ車両がお宅の車と同車種なので、こうして伺ってるわけです」
老刑事の方が、温和な笑みを浮かべて言った。
「そうなんですか」
山部は自分に落ち着けと言い聞かせた。
「山部さん、アナタ、車修理、なさってますよね。どうしました?」
若い刑事の方は、苦虫でも、噛んだような表情だった。
山部は彼らにも、一週間前、買い物に出掛けたさい、路肩の木にぶつけたと説明した。
それに対し、根掘り葉掘り、細かい質問をされた。
最後に若い刑事が
「そーなんですかあ」
と老刑事に、相槌をうった。
老刑事は
「解りました。お休みの所、どーもスイマセンでした」
と言って、二人は去って行った。
(ダメだ、ばれた)
山部は直感した。
今度来る時は、逮捕状を持ってくるから、よろしくと、確実に、そういう雰囲気だった。


毎日、ビビりながら暮らした。
1日が終わるとホッとした。

1ヶ月ほど何事もなかったが、ある日、とうとう、所轄の警察署から出頭命令の電話が来てしまった。
もうどうしようもない。
山部は覚悟を決め、着替えてアパートから出た。

駐車場まで、とぼとぼ歩いていると、後方から車が、スピードを上げながら、山部に向かって来た。
「ん」
振り向く間もなく、山部は車に跳ね飛ばされ、地面に叩きつけられた。

車は急ブレーキをかけて止まり、中から中年の男女が降りて来て、ぴくぴく疼くまっている山部に恐る恐る近付いて来た。
二人が瀕死状態の山部を凝視していると、そこへ警官が現れた。

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