屋上の鍵は机の中に
約束
少し強い風が、僕のクセがある髪を遊ばせる。
放課後の陽射しは春らしく柔らかで、七分咲きの桜をとおって届く光は輪郭の溶けた大理石のようだ。
僕は図書館の裏にある桜の大木の根元に寝転び、桜色の間から覗く空を見上げていた。
薄い雲が刷毛で掃いたように流れている。
あくびをすると、すべてがぼやけた視界で混ざっていった。
遠くからは部活動に励む生徒の声が聞こえてくる。
僕のいるところては違う時空からやって来たような遠い音は、僕に何の意味も伝えない。
瞼の重い春の放課後。
僕は目を閉じた。しかしそれは眠たいからではなく、気持ちを落ち着かせるために。
視覚を塞ぐと、心臓の音がよく聞こえた。
緊張しているのだ。
図書館へ行けば宮藤かんなに会うことができるとわかっている。
けれど、入ることが出来なかった。
エントランスを横目に、いつもの昼寝場所へ来てしまう。
今日で四日目だと数えて、自分の小心さに嫌気が差した。
今日こそは館内に入らなくてはいけない。
話をするまでには至らなくとも、姿を見たい。
それに、一日二日は暖かい目をしていた陽光が、昨日はニヤニヤしながらまだか、と呟いたのだ。
今日も入れなかったと知れたら、どんなにからかわれ馬鹿にされるか。
それだけは絶対に避けたい。あいつは一つのネタをしばらく引出しに入れておくのだ。
陽光のニヤニヤ顔を思い浮かべたら、急に焦ってきた。
僕は立ち上がって深呼吸し、桜を見上げた。