屋上の鍵は机の中に
我が校が誇る図書館の扉は歴史の厚さを語る。
その前に立つと気の引き締まる思いがする。
試されている気がするのだ。
何をと問われても答えられないけれど。
実際には古い、重厚なつくりの扉があるだけだ。
でも、今は僕の心を見透かす門番のように見える。
臆病を咎められている気がして居心地が悪い。
気まずさに背を押され、ぎこちなくしか動いてくれない腕を伸ばしてノブを掴んだ。
ノッカーの上で凄んでいる獅子と目が合った。
これだ。
かすかな軋みと共に扉が開いていく。見た目より重くない。
たしか、入って左手に貸出しカウンターがあるはずだ。
彼女がカウンターにいるかもしれないと思うと、視線を上げることができなかった。
広いエントランス・ホールを俯いたままゆっくりと進んだ。
早く見たいと思う反面、もう少し猶予が欲しいとも思った。
ジレンマを孕んで心拍数が上昇していく。
一度だけ小さく深呼吸して、顔を上げた。
いない。
カウンターの中に彼女の姿は見えなかった。今日は休みなのかもしれない。
なんだか拍子抜けして、溜め息を漏らした。
それが落胆の溜め息なのか、それとも安堵の溜め息なのかは判別できない。
おそらく、どちらもだ。
複雑な心境のなか、辺りを見回した。
吹き抜けのホールには傾きかけた陽の光が差し込んで、まぶしいくらいに明るい。
空間全体がまどろんでいるような、穏やかな雰囲気に包まれている。
彼女が纏う空気と同じように感じた。