屋上の鍵は机の中に

哲学の分類までの道のりは長かった。

「検索してみますと、カントの著作に『天界の一般自然史と理論』というのがあるのですが、ドイツ本から各国翻訳まで結構な数が置いてあるようです。特にお求めの物はございますか?」

隣を歩きながら宮藤は画面を見せてくれた。

でも、僕は本の種類より彼女の事が気になって左半身を固くしていた。

「原書に近いのがいいな。前に読んだのは黒い布張りのハードカバーに、金色の文字が飾られてるものだったんだけど。」

祖父の書斎で見つけた夜空。

「姫村さんはドイツ語をお読みになるのですか?素敵ですね。私なんか英語さえ日常会話程度しかできないですよ。」

ふと、彼女の言葉に違和感を覚える。

「もしかして、姫村さんにはドイツの血が入っていらっしゃるとか?どことなくゲルマン系のお顔立ちと見えますが。」

彼女は数歩後ろで考え込む僕を振り返った。

「姫村さん?」

名前だ!

「あの、なぜ、僕の名前を…?」

森宵学園の制服に名札はない。

彼女は驚いたような顔で答えた。

「姫村さんを知らない生徒を探す方が難しいですよ。それに、」
「それに、何?」

言葉を切って俯いた彼女を促すと、悪戯っぽい表情が僕を見上げた。

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