屋上の鍵は机の中に
「いつも裏の桜の木の下で寝ているのは、姫村さんですよね?二階の閉架の窓から丁度見えるんです。先輩に一度聞いてみたことがあって。」
きっと無防備に寝ていたに違いない。恥ずかしくなって左手の掌で顔を覆うと、優しい声色で彼女が囁いた。
「安心してください。見えるのは閉架の窓からだけですから。他は窓の位置が高くて覗けないんです。」
閉架に入り浸るのは私くらいですし、と彼女は付け加えたが、その本人に見られるのが一番恥ずかしい。
でも、なんだかくすぐったい雰囲気が嬉しかった。気がつけば最初の緊張もどこかへ行ってしまっていた。
「いつもお一人ですし、内緒の場所なんだと思って、杉下先輩にしか言っていないんですよ。」
内緒、という響きがいかにも甘美なものに聞こえて、ドキッとした。
「内緒ってわけじゃないんだけど、誰も来ないからゆっくりできるんだ。」
「気がつきにくい場所ですものね。それでは、姫村さんの休息時間を邪魔しないためにも他の人には秘密にしておきますね。」
人差し指を口に当ててクスクスと笑う彼女を見たら、胸がギュッとなった。
こうして話せたのは予定外の喜びだったけれど、鳩尾あたりからムクムクと欲が湧いてきた。
これきりにしたくない。次があってほしい。
そう思ったとき、ブレザーのポケットから微かな金属音が聞こえた。
これだ、と閃いた。