屋上の鍵は机の中に
星空と桜
屋上の鍵は寮の机の中に入っていた。
備え付けの古くて大きな勉強机。
その一番上の引き出しの中に、凝った装飾の鍵と真っ白な封筒に入った手紙がぽつんとあった。
手紙には一言。
――君に美しい眺めを引き継ごう。
ひどく整った字で書かれていた。
だから現実味のない言葉に思えた。
けれど、この鍵で美しい眺めの扉が開くとしたら、屋上しかないと思った。
ほとんど直感だったけれど、確信に近い思いでその鍵を握りしめた。
その日の夜、寮長による点呼が終わり、陽光が寝息をたてたのを確認して、こっそりと部屋を抜け出した。
見回りはいないと聞いていたものの、廊下に響く僕だけの足音にドキドキした。
屋上へ上がる階段をみつけ、登りながら鍵を取り出した。
その時ふと、校舎の屋上かもしれないなと思った。
でも、手の中にある鍵は古めかしく、昼間に見学した校舎は真っ白だったので、その考えは三秒で消えた。
鍵を鍵穴に挿してゆっくりと回す。
120度回したところでぐっと重くなる。
華奢な鍵が曲がってしまわないかと心配したけれど、ガチャリという音と共に抵抗はすっとなくなった。
心臓の高鳴りを感じながら扉を開けると、そこは時計塔だった。
時計塔を囲む展望台に出たのだった。
シンメトリーに造られた寮の建物中心に時計塔が乗っかっていて、その回りを幅2メートルほどの足場と柵が囲っている。
整備室へ登る梯子が裏側に掛かっていた。