屋上の鍵は机の中に
春の夜はまだ肌寒かった。
身をすくめて眺めた夜の学園はひっそりとしていて、聞こえるのは風に吹かれた木々の音だけだった。
暗闇の中で街灯に照らされた桜並木だけが浮かび上がって見えた。
何かが胸に込み上げて、鳥肌がたった。
桜の木が放つ優しく悲しげな光に、涙が堰を切ったように溢れ出た。
感動しているのか、淋しいのか、悲しいのか、わからなかった。
すべてがない交ぜになって僕の胸にのし掛かっていたのだと、気が付いた。
早春の風が吹き抜けて、腫れぼったい瞼を冷やしていく。
見上げると満天の星空で、僕はなんとなく澄んだ気持ちになった。
ぼんやりと星を見ていたら、日付を変える鐘の音が響いた。
この夜から僕は屋上へと通うようになる。