屋上の鍵は机の中に

午後からは入学式のため授業はなかった。

僕と陽光は教室に寄って鞄を取ってからすぐに校舎を出た。

「どうする?着替えてから行く?」
「んー、面倒だし制服のままでいいかな。」
「じゃあ直行!」

陽光は玄関の扉を勢いよく開けて飛び出した。

反動で僕に戻ってくる扉のことなんか考えていない辺りが彼らしい。

そして僕は五歩くらい遅れるのだ。

玄関からのびる桜並木に沿って歩いていると、ちらほらと真新しい制服に身を包んだ新入生が歩いてくる。

まあ、新入生といってもみんな中等部からの持ち上がりだろうから、制服のデザインくらいしか変化はないのだろうけど。

それにしても、桜が見事に咲いている。一面真っ白だ。

春が苦手な僕も、桜は好きだ。

慰められる気がする。

桜がなければこんな苦しい思いをしなくていいのに、と歌ったのは誰だったか。

僕はその潔く悲しい運命の桜を見ると、仲間に激励されているように感じる。

桜に気をとられながら陽光の話に適当な相づちを打って、正門へと歩みを進めた。

「ひーちゃんは今年も特進のAでしょ?」
「うん。陽光は何組だっけ。」
「俺はB!でも担任が同じで梶先生。美香ちゃんがよかったなー。」

美香ちゃんというのは普通科の担任の中で一番若くて綺麗な女の先生だ。

心理テストが好き。


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