屋上の鍵は机の中に
風に揺れる長い髪が春の陽に輝いている。
「全国模試で毎回一番取るなんて凡人には無理です!これで教えるのが上手かったら俺の成績も上がるのに。」
「わかんなかったら教えてあげるのに。」
まるで春のような女の子だ。周りの空気と同調して霞んで見える。
制服が新しそうだし、新入生かな。
「説明が跳びすぎててわかんないの。凡人には天才の無意識下の処理を教えていただかないとわからないのです。」
「……」
「あ、怒った?ごめんごめん。」
「……」
「ひーちゃん?」
女の子とすれ違う、その一刹那、彼女と目が合った。
心臓が跳ねた。
遠ざかる彼女の後姿はぼやけるどころか、段々と鮮やかさを増していくように感じた。
「ひーちゃん?ねえ、ひーちゃんてば!」
不思議な感覚に放心して立ち止まった僕を覗き込むようにして陽光が呼びかけてきた。
「え、ああ、何?」
「何って、ぼーっとしてるからどうしたのかなって。いつものことだけど。」
「ああ、えっと、」
「つっこまないんだ。」
「え?」
陽光の顔から力が抜けた。
「いや、何でもない。で?」
「あの、今すれ違った子、知ってる?僕は見たことないから新入生かなて思って。」
陽光は振り返って彼女を見やった。玄関のドアに手をかけたところだった。