屋上の鍵は机の中に
「一個下の宮藤かんな、だと思うよ。」
「へえ、さすが陽光。よくわかったね。」
陽光は情報通だ。 双子座だからね、と本人はよく言っている。
彼は占いや性格判断などをよく好む。
「あの子はみんな知ってるよ。宮藤かんなは一年からずっと図書局員なの。だから結構有名人。バッチ付けてなかった?」
言われて、脳みその皺から図書館の情報を引っ張り出した。
この学園の図書館は特別なのだ。蔵書数も、それを収める建物の歴史も、ずば抜けていると聞いた。
それを管理する生徒も選ばれし生徒が、というわけで、年度始めに選定、査定されるらしい。
局員は黒のベルベットに縁取りされた金のバッチを授与される。
一つのステータスだそうだ。
「あ、あー。あーはあーん?」
陽光はニヤニヤしながら僕の肩にくっついてきた。
「後輩チェーック、ですかあ。」
「いや、別にそんなんじゃ」
「うん、確かに宮藤はかわいい。」
「だからっ」
「新歓楽しみじゃー!」
僕は人の話を聞いていない陽光き呆れつつ、自分の胸の様子に戸惑っていた。
緊張しているような、そわそわしてくすぐったい感じだ。
何かに急かされている気分。
これは春だからなのか、しかしいつもの不快感はない。
「ひーちゃん、何ボケッとしてんの。置いてくよ。俺は早くアイスが食べたい!」
振り向くと小さくなった陽光が校門を出ようとしていた。
僕は走り出した。
僕はまだ、自分の世界が変わり始めたことに気が付いていない。
僕の春はこの時始まったのだ。