屋上の鍵は机の中に

約束どおり、陽光と約束したアイスを食べに行った。

そのあと、ついでにお気に入りの店へ服を見に寄ったりしたけれど、僕は何をしても上の空だった。

幾度となく頭に浮かぶのは桜色。

あの少女の姿だった。

すれ違う一瞬に合った黒い瞳。

微かに細められた目にはどんな言葉が?

あの一瞬がリプレイを繰り返す。

その度に疑問符と胸の違和感に眉をひそめた。



寮に帰ってからも心此処に在らずといった様子はだったらしい。

夕食を終えて部屋に戻ってから、僕の膝の上でいつまでも捲られない本を陽光が取り上げた。

はっとして見上げると困ったような、呆れたような顔があった。

「どうした、姫村くん。意識が異空間へ繋がっていたみたいだよ。もしかして宇宙人と交信できる力を手にしたのかい?大丈夫、秘密にするから。」

心配するのでも、こう茶化されると話しにくいってことを彼は知っているのだろうか。

「いや、まだ返信は来ないよ。」
わざとらしく溜め息をつくと、陽光はケラケラと笑った。

「ごめん、ごめん。真面目な話、何の悩み?」

「悩みってわけじゃないんだけどね。今日学校を出るときにすれ違った子のことがちょっと気になって。」

「わ、ひとめぼれ?こいわずらい?」

 聞き慣れない単語に思考が一瞬止まった。

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