偽りの仲、過去への決別
幼い時から小室はあまり人を信用することをしなかった。学歴がなかった両親は、2人ともどこか世間をきちんと見ることをしなかった。低収入でもいつか努力次第で世の中を見返せると思い込んでいた。 そんな両親に育った小室は、両親の口先だけの生き方を軽蔑していた。 結局、頭が悪いことを認めない両親が嫌でしょうがなかった。もっとも身近な人間が1番信用ができなかった。 両親に反発しながら育った小室は、とにかく勉強をした。 しかし思い通りの高校、大学には進学できずにいた。
自分より成績が低い人間が自分より上の学校に行くことに心底憎しみを持った。 どこかにこの憎しみをぶつけるしかなかった。 小室は両親の不甲斐なさを責めた。自分より上の学校に行った人間はただ自分より環境が良かっただけだと思い込もうとした。
だからこそ、人の短所を無意識のうちに探してしまう癖がついてしまった。 表面上は笑顔で接しても、時間とともに小室の真の正体がいつしか相手にわかってしまっていた。 小室自身はそのことがわかってはいなかった。
ただでさえ自分中心に生きてきた小室は、人の短所はわかるけど、人の長所を見極め、永く付き合うことなんか考えもしなかった。 目の前で、カズの為につかみ合いまでして、カズの為に喧嘩をした洋二の姿が小室の目に焼き付いていた。 何回も婦長とぶつかり合っても諦めずに会いにきた松山と話したいと思った。 小室はカズを通して自分に欠けている人と人との結びつきに対して学ぼうとしていた。 今の会社を辞めて、新しい環境を求めても、自分自身が変わらないと同じだと昨日学んだ。 遅いかもしれないが気付いた事だけでも良かったと小室は思っていた。 このままではいけないとカズ達を見て思った。自分も誰かに本音でぶつかり合える友達が欲しい。それには自分が変わらないといけないと気付いた。
「引っかかってますよ。松山の野郎、どうしてあんな奴の肩を持つのか。」 カズは納得できなかった。自分を襲って怪我までさせられた相手ときちんと話し合えなんて。 カズは小室に今までの経緯を話した。ヒロ達兄弟に殴られて意識不明なるまでの出来事を。
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