偽りの仲、過去への決別
小室は言った。 「そう言えば、君はまだ誰にも事件があった時の出来事を話していないんだろう。じゃあ松山君が真実を知らないということだよ。」 カズは松山に遠慮して昨日ヒロ達のことを話さなかった。あれだけヒロを擁護されるとカズは気落ちしてしまった。 それにまだ目覚めたばかりで周りの動きが把握できずにいた。「そのヒロって奴はきっと君が目を覚まさないのをいいことに、周りの人間に嘘をついているんじゃないか。」「やっぱりそうなんだ。じゃあ松山達は本当のことは…。」
「まだ知らない可能性はあるかなあ。」「どうしてばれる嘘をつくのかなあ、あの野郎は。」 カズは怒りで体が熱くなった。 「その時は嘘がばれるなんか思っていないよきっと。実際君は意識不明だったんだから。」 「さすが大人の意見。」
カズは小室を尊敬した。「いや、そのヒロっていう奴と俺は似ているんだ。」 小室から意外な答えが帰ってきた。 「あんな奴と小室さんが似ているって?。」
「俺もよくその場限りの嘘をつき、辻褄を合わせる為に、苦しみながら嘘を続けていたんだ。あまりにも嘘をつきすぎて嘘が本当の自分になってしまうんだ。」 小室は肩を落とし、淋しそうであった。 その時、見知らぬ1人の女性がカズと小室に近づいてきた。
「小室さんが入院したと聞いてびっくりしました。」 年の頃は25歳ぐらいの長身で美人の女性だった。 小室は急によそよそしい態度になった。 この女性とは、今の営業所に勤める前の、前の営業所で一緒だった同僚であった。
小室はこの女性が苦手であった。なぜかすべてを見透かされている気持ちになった。 「何しに来たんだ菅野。」 小室はそっぽを向いた。 「お見舞いですよ~。」 菅野は笑った。 小室は思い出していた。新しい営業所に転勤する時に、菅野に言われた言葉を。
小室は菅野に良い思い出はなかった。 小室が今の営業所に転勤する時、菅野は言った。 「知ってました。小室さんみんなに嫌われていましたよ。」 小室は菅野を睨んだ。 菅野は平然としていた。「お前、よく先輩にそんな事言えるなあ。」
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