偽りの仲、過去への決別
「別に。それに私のほうが営業成績良いし。」 「お前は最初から生意気だったよな。」 小室は菅野をいつも苦々しく見ていた。自分より要領よく立ち振る舞いをする菅野が憎たらしくてしょうがなかった。「これでお前の顔を見ないですむと思うとせいせいするよ。」
「次の営業所では嫌われないように。まあ小室さんの性格の悪さは有名だから。」 小室に声をかけたのは結局菅野だけであった。その時は頭にきて忘れていたが、確かに菅野だけが話しかけてきた。 小室はその時のことを思い出していた。
「何しに来たんだよ菅野。俺をからかいにきたのか。」 カズは菅野を見ていた。あまりの綺麗さに目が離れずにいた。こんな綺麗な人になぜ小室が怒るのかまだ子供のカズにはわからなかった。 子供のカズでも菅野が凄く魅力的なのはわかった。
「良かったねえ~、良い話し相手ができて。」 菅野はカズを見た。 「そんな言い方よせよ。彼は俺の友達なんだから。」 小室は真剣だった。菅野が小馬鹿にしてカズとの仲を茶化すのが許せなかった。小室は本気だった。
年の差なんて関係ないと思っていた。カズに嫌な気分になってほしくなかった。 「菅野、もう帰ってくれよ。」 菅野はちょっと言い過ぎたことを反省していた。小室が真剣に怒ったことが意外であったからだ。
それにしてもこんな子供が友達なんて小室がおかしくなったのか心配になった。同世代に友達がいないからそんな事を言っていると菅野は思った。「じゃあ帰ります。」「もう来ないでくれ。俺、会社辞めるつもりだし、お前とは最初から相性悪いし……。」
小室はつい本音を言ってしまった。いつもの自分ならこんな菅野みたいな後輩に本音を言うこともなかった。 菅野は立ち止まっていた。 カズから見ても明らかに菅野は動揺していた。「もうお前とは会うことはないよ。」 小室は笑いながら言った。
小室はカズを見て言った。「俺は俺なりのけじめをつけようと思って。カズ君達を見ていると精一杯自分に正直に生きてみようと思って。大人の俺が君達に生き方教わるなんて自分でも信じられないけどねー。」 小室は嬉しかった。
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