偽りの仲、過去への決別
カズは口をあんぐりと開けていた。 「俺達が小室さんに影響を与えたなんて……。」 菅野はやっと小室がカズに対しての気持ちが本気だったことを知った。 小室が変わったことが正直ショックだった。 「菅野もう同僚や上司は来ないよ。一回は会社の勤めとして来るけど。しかしカズ君の友達はどんなことがあっても会いに来るんだ。俺も少しでもカズ君に近づければ良いと思ってこれから頑張ってみようと思って。」 小室の笑顔に菅野は圧倒された。
「会社辞めるの、どうして。」「そうだよ。1から出直しだけど。」 小室は力強く言った。 菅野は小室にどんな心境の変化が起こったのかまだよく把握できずにいた。 隣りに入院している子供を友達と言ってみたり理由がわからなかった。
きっと入院したので、気が弱くなったとしか思えなかった。 「会社を辞めるつもりなの。」 「そう。」 小室は早く菅野に帰ってほしかった。 どうせただ様子を見に来て、同僚達との話しのネタにしたいだけだと思った。 カズは小室が素直に自分を見舞いに来てくれた菅野の気持ちがわからないことに不満を抱いていた。カズみたいな第3者じゃないと、自分の考えに固執している小室みたいな人間には人の気持ちがわからないのだろうか。
カズより長く生きていて、人生観が確立しているはずの小室がなぜか年上に見えなかった。 人生経験があるからといって大人が立派に見えることがカズにはなかった。 「小室さん。ちょっとこっちに。」 カズは手招きをして自分のベッドに小室を引き寄せた。
小室は自分のベッドから立ち上がるとカズの所に行った。 菅野は黙って小室の様子を伺っていた。「あの人、小室さんのこと好きなんじゃないのかなー…‥?。」 カズは菅野の聞こえないように小声で話しをした。 小室は驚いた表情を見せた。
「まさか。あいつ本当に嫌な奴だぞ。外見にみんな騙されるんだ。」 「そうかなあー。だって帰ろうとしないよ。」 そう言われればそうだ。カズの言う通り菅野はまだいた。 菅野の表情を小室は見た。
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