偽りの仲、過去への決別
「何ジロジロ見ているのよ。それに2人で内緒話しして本当仲が良いこと。」 菅野は今度は本当に帰ろうした。「ちょっと待って。」 カズは菅野に声をかけた。 菅野はカズを見た。何か言い出そうとした。
菅野はカズを見た。何か言い出そうとした。 「小室さん、せっかく来てくれたのに追い返すのはまずいでしょう。」 どうして大人の2人の間を取り持たないといけないのか、カズには不満があったが今は仕方ないと諦めた。
「見舞いに来たなら何か持ってきたのか、それとも手ぶらできたのか。」 小室はまだ菅野のことを疑っていた。 菅野は顔を下に向けた。 「今度何か持ってくるわ。今日は……。」 小室が入院したことを聞いた菅野は、心が動揺して無我夢中で病院に駆けつけていた。 誰からも小室を心配する声はなかった。それに営業所が違う菅野には、小室が入院したことなど連絡はなかった。
しかし何かと小室のことが気になっていた菅野は、小室の知らない所で、小室と同じ営業所で働く同期入社の女子社員から情報を得ていた。 今回の入院の件を知ったのも、その女子社員からの情報だった。 「今度って。又お前来る気かよ。俺と関わっていると、会社の人間に睨まれるぞ。」 小室は笑った。なぜか笑った。 今の小室は自分が会社から良い印象をもたれていないことを知っていた。
小室には小室なりのプライドがあった。同僚よりたくさん残業をして、会社にはそれなりの貢献をしたと自負していた。しかし結局、要領要領よく立ち振る舞いしたことが、かえって周りの人間の怒りをかった形になってしまった。
小室に敵外心を持つことで他の人々が仲良くなったことも事実であった。 小室の影に隠れて、同僚達の仕事上の失敗や、トラブルを小室がしらない間に処理させられていたこともあった。
それに会社を辞めていく人間達は自分の会社での不適合を棚に上げ、小室の同僚に対する冷たさだけを強調していた。 結局、小室は自分が思っているほど立ち振る舞いが上手いわけではなかった。逆に要領が人より悪かっただけであった。あまりにも、人間関係において正直すぎたのであった。
< 121 / 132 >

この作品をシェア

pagetop