偽りの仲、過去への決別

小室はあまりにも、余裕がなくがむしゃらに生きてきて、自分を振り返ることをしなかったツケが回ってきただけであった。 そんな要領の悪い小室を、１人だけ認めていたのが菅野であった。 そんなことなんて小室はわからなかった。
「別に暇な時、来てあげようかなあと思っていただけだよ。」 小室は始めて、菅野のことを意識した。 「どうせ誰もあなたのところに見舞いに来ないし。」 菅野はまだ動揺していた。小室が会社を辞めると言ったことが。 「じゃあ私仕事があるから帰るわー…‥。」 菅野は何か小室に言ってほしかった。 小室は何も言わなかった。 「じゃあそちらの患者さんもお大事に。」 菅野はカズに挨拶すると、病室を出て行った。 菅野は悲しかった。こんな形で小室が会社を辞めて行くことが。しかし自分には小室を引き止める理由なんてなかった。自分が一回でも小室をかばったり、励ましたりしたことなんてなかった。だから今現在、後悔の念で一杯であった。 「別に会社に睨まれても……。」
菅野は小室に即答できずにいた自分が恥ずかしかった。 行動で示さない限り、小室は自分に心を開くことはないと思った。 病室では、小室は考え事をしていた。 カズは背中を向け黙っていた。
カズの体に夕日が当たっていた。傾いいた太陽は、今日１日の輝きを休め、また変わらない明日の為に静かに休息を取り始めていた。 この時間になると、自然に松山や洋二結衣の顔が浮かび上がってきた。 カズはぼんやりと外を見ていた。 ヒロは学校が終わるとすぐに隣りの松山達のクラスを覗き込んだ。 ヒロのクラスより早く終業の挨拶が終わっていた。 担任教師の姿はなく、松山達クラスメイトの姿もまばらであった。そこの中に松山と結衣、そして洋二の姿があった。
松山は洋二と結衣から離れていた。 ヒロは３人の姿を注意深く観察していた。 松山達のクラスメイトが三人を残して全員帰ったことで、自分の作戦が成功したことを確認した。 廊下の向こうから松山達の担任教師の姿がヒロの目に映った。