偽りの仲、過去への決別

ヒロは足早にその場所を去った。 ヒロはカズが入院している病院に向かった。 ヒロのズボンのポケットにはカッターナイフを忍ばせていた。
ヒロは昨日から寝れなかった。緊張感で吐き気がとまらなかった。それだけのプレッシャーを受けていた。 カズが怖かった。あの時、兄貴達が反撃されヒロはカズに向かっていったが簡単にカズにやられてしまった。
今度は兄貴達はいない。自分１人でカズに立ち向かわなけばならない。 ヒロは震えが止まらない右手を何回も左手で叩いた。 松山達三人は、お互い何も話さずに席に座っていた。 まだ担任教師は教室には来ていなかった。
三人の沈黙を破るかのように、洋二が松山に向かって話し始めた。 「あまり時間がないから短めに話すけど、松山本当に今日カズの病院に行かないのか。」 松山は今さら何を言っているのだろうか、洋二の意図が計り知れなかった。
「洋二、お前は行くのかよ。」「行くよ、これから。」 洋二は平然と答えた。「じゃあどうしてここにいるんだよ。」 松山は今日始めて洋二の顔を見た。 洋二は松山を睨んでいた。 結衣は何かあったら２人の間に入って止めないといけないと身構えていた。 結衣自身、今は担任教師の言いつけを断り、カズの病院に行くべきだったと後悔していた。「俺、先生が言ったこと断ったよ。」 洋二は不敵な笑いをした。洋二からの挑戦状でもあった。「じゃあさっさと行けばいいだろう。」「そう思ったけど、一応、松山がカズに言付けがあるなら聞いていこうかなあと思ったんだ。」 松山はショックで沈黙していた。 洋二が担任教師の命令を断るなんて。
今までの自分だったら洋二と同じ行動を起こしたのに、今の自分は、そんな元気もなくなってしまった。 カズにヒロのことをただ穏便に話し合いをしてほしかっただけで、あんなに喧嘩になるとは思いもしなかった。
それに、洋二のおかげで余計にカズとの会話が混乱した。 松山は洋二に腹を立てていた。最初は様子を伺っていたくせに、急に見舞いに付いてきて、今では偉そうに主導権を取り始めたことに、松山の神経を苛立たせていた。「何にもないよ。」 松山は悔しかった。