偽りの仲、過去への決別
今はなぜかカズに対して憎しみはなかった。 兄貴達を使ってカズにけがをさせたことは、何ひとつやましさはなかった。別に開き直っているわけではなかった。
しかし、もう嘘をつくのに疲れていたのは事実であった。これまでのことを考えると、ヒロの心はもうすべてにおいて、人に対しての良心の判断力は鈍り、打算的な思考しかなかった。 松山と接している時が、本当の自分に戻れた。何も話さなくても、心地よい居場所に思えた。 ヒロはわかっていた。カズも自分と同じ思いだということを。 だから決着をつけなければならないと思った。 このままでは、自分の居場所がなくなるから。 ヒロはカズの病室の前に立っていた。 カズは外を眺めていた。
窓にヒロの姿が映った。カズにもわかっていた。今日きっと決着をつけにヒロが来ることが。 なぜか動揺はしなかった。カズもヒロを理解していた。 松山を巡る攻防戦ではなく、恵まれない思いを背負った2人の戦いだということを。
自分の居場所を求めるあまりにいがみあっただけであった。 自然体で出会えれば、こんなにいがみ合うこともなかったはずだ。 しかしカズはヒロに対して、何1つ妥協する思いはなかった。それはヒロも同じであった。
カズはベッドから立ち上がると、ヒロに向かって歩きだした。 隣りのベッドで考え事をしていた小室がカズに声をかけた。 「どこ行くんだ?。」 カズは小室に笑いかけた。 「ちょっと、用事が。」 小室は今までのカズとは、様子が違うことを感じ取っていた。 「何かあったのか。」 「いや別に。ただこれで決着がつくかなあと思って。」 小室は意味がわからずにいた。 カズは病室を出ていった。
小室は今までのカズとは、様子が違うことを感じ取っていた。 「何かあったのか。」 「いや別に。ただこれで決着がつくかなあと思って。」 小室は意味がわからずにいた。 カズは病室を出ていった。
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