偽りの仲、過去への決別
「さっきまでいたけど、何か決心したような顔して、病室を出ていったよ。」 小室は言った。 「そういえば、さっき一瞬だったけど、カズ君を見たわ。誰か知らないけど同じような年ぐらいの男の子と一緒だったわ。」 管野が言った。 洋二の顔が、段々険しくなった。 「やばい、ひょっとしてヒロかもしれない。」 「一体どうしたんだ。」 小室は焦っていた。やはりただ事ではなかったのだ。 「そいつは、カズを襲った奴の弟ですよ。」
洋二はそれだけ言うと、病室を飛び出して行った。 小室も管野も洋二の後に続いた。 松山と結衣は、担任教師の監視のもと、配られたプリントに目を通していた。 2人とも無言のまま、鉛筆を滑らせていた。 担任教師は、2人を見つめていた。2人の様子をつぶさに観察していた。 「お前たち。俺はちょっと職員室に用事があるから自習していろ。」 担任教師はもう2人を見て安心していた。馬鹿な行動に出るとは思っていなかった。 職員室に戻って、お茶でも飲んでゆっくりしようと考えていた。 担任教師がいなくなると、松山は手を止めた。 鉛筆を机に投げ捨てた。さっさと席を立つと、鞄を持って教室から出て行った。 結衣は1人だけ置いてきぼりになった。
結衣は、松山の気持ちがわかっていた。何も言わず出て行った松山は、結衣を巻き込みたくないからだ。洋二も松山も自分の気持ちに正直に行動を起こした。 松山はやはりカズの病院に行くことを選択した。迷いがあったが今はなくなっていた。やはりカズに会いたかった。 ただ結衣を巻き込むことだけは避けようと思った。だから何も話さずに教室を出た。 担任教師の馬鹿な策略にもうこれ以上付き合う思いもなかった。 結衣は松山と同じ行動に出た。
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