偽りの仲、過去への決別

「松山に真実をまだ話していないんだろう。それに警察にも。」 ヒロは自信満々だった。まだカズの傷が完治しておらず、断片的にしか記憶が戻っていないと判断していた。 「どうしてそんな風に思えるんだ。」
「松山達の会話を聞いたからだよ。まだお前が記憶がすべて戻っていないと……。」 「バカじゃないのお前。はっきり覚えているよ。お前を蹴り上げたことまで。」
ヒロは唖然とした。カズの記憶がすべて戻っていることに。じゃあなぜ松山や周りの人間に真実をカズが話さなかったか理解できずにいた。 「それならなぜ松山に真実を話さなかったんだ。」
「話そうと思えば話せたさ。でももう少し経ってから話そうと思ったんだ。お前みたいなくず野郎を松山は信じていたからなあ。」 「そうさ、松山だけは俺を何だかんだ言っても信じてくれたよ。」 「でもお前は結局松山に嘘をついたんだ。」
カズはヒロが動揺しているのがわかった。 「嘘をついたよ、確かに。でも……。」 「お前一体何が目的なんだ。」 「お前を脅しにきたんだ。事件の真実を話さないようにするために。」 カズはヒロの脅しに屈するつもりなどさらさらなかった。
ヒロはナイフを出すかどうか迷っていた。ここでカズの口を塞いでおかないと、松山や警察に真実がわかるのは時間の問題であった。 ヒロは笑った。 「参ったなあ。もうここまでだなあ～。こんなことしても、お前みたいな奴には通用しないか。」 ヒロは独り言を言った。 ヒロはナイフを握った右手を離した。 ヒロはカズに背を向けると、転落防止ようのフェンスにしがみついた。 ３メートル程の高さで、編み目状のフェンスであった。
ヒロは一歩一歩ゆっくりと登っていった。 カズは最初、ヒロの意図を計れずにいた。 「お前、何がしたいんだ。」 ヒロは返事もしなかった。 カズは慌ててヒロのもとに走り寄った。 「お前危ないだろう。止めろ。」