偽りの仲、過去への決別
カズはフェンスの下から大声で叫んだ。 ヒロはフェンスの頂上に立った。するとカズを見た。顔が笑っていた。恐怖や迷いのない表情だった。夕日に照らされたヒロが凄く眩しかった。「止めろよ。危ないから下に降りてこいよ。」 カズはフェンスを登り始めていた。
「来るな。頼むから来ないでくれ。」 ヒロは叫んだ。 カズは登るのを止めた。 「降りてこいよ。ゆっくり。」 「俺、今まで嘘ばっかりついていたよ。松山まで騙してしまったし。本当馬鹿みたいだ。」 「わかったから。下に降りてから、ちゃんと話そう。俺を襲ったことも含めてちゃんと話そう。」「全部俺が悪いんだ。悪かったなあ。松山にも謝っておいてくれ。」 カズはフェンスにしがみついていたが一歩も進めずにいた。 「ヒロ。」
松山の声が聞こえた。 松山と洋二と結衣、それにカズを一緒に探していた小室と管野の姿があった。 ヒロは松山を見た。 するとフェンスから飛び降りた。 病院の8階から飛び降りたヒロは死んだ。
ヒロが死んだことに関してあらゆる所で波紋が起こった。 ヒロの兄貴達は、警察に全面自供した。今までのかつあげの件の全てを話した。もちろんカズを襲ったことも。 大事な弟を失ったヒロの兄貴達のショックは、ヒロの母親にまで及んだ。
母親は数え切れないほどヒロの名前を叫んだ。 学校はヒロに対して何か、イジメやトラブルがなかったか調査を始めていた。表向きのパフォーマンスでも、皮肉にも始めてヒロが注目された。 同じクラスの恭子は、何日もヒロの机を黙って見つめていた。ヒロを罵った自分を責めていた。 カズ達の担任教師は、勝手にカズの病院に行った松山と結衣の行為を責めようとはしなかった。 余計なことを言って自分に責任問題が追求されることを逃れるためだ。 ヒロの提案に乗っかり、軽はずみな行動を犯した担任教師は、松山先生に詰め寄られて職員室は一触即発の雰囲気なった。 小室は警察にヒロが飛び降りた証言をした。
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