偽りの仲、過去への決別

小室はヒロとは面識はなかった。でもまだカズと同じ１２歳の少年の死にショックを受けていた。管野は屋上で動けなくなってしまった。 小室はカズ達に何も言えなかった。大人としての言葉を。
松山は、ヒロが飛び降りる寸前、自分を見た時のヒロの顔が笑った。どんな意味合いがあるのか、松山なりに考えていた。確かに笑ったのだ。
カズはなぜこの場所でヒロが死んだのか、少しはわかったつもりであった。後で聞いた話したでは、ヒロはポケットにナイフを忍ばせていた事実を知った。ヒロがナイフを出そうか迷っていた風景がカズの脳裏に浮かんだ。しかしヒロはナイフを出さなかった。
あれはカズを脅すためではなく、ヒロ自身を守るナイフだったのだ。ナイフを離した瞬間、もう自分を守れないと思った。嘘ばっかりついてきた自分にいるべき場所がなくなった。松山に嘘がばれる前に自分自身を消失しようと思った。
カズにはなんとなくヒロの気持ちがわかった。ヒロは友達が欲しかっただけであった。誰でもよかったわけではなかった。自分のことをどんな時も見放さない友達が欲しかっただけだ。きっと松山のカズに対する態度が、ヒロが欲しかった友達の形だった。
ヒロは結局自分を理解してくれる友達を探すために、短い人生を捧げたのかもしれない。だから松山には、自分の嘘で固めた汚い姿をさらけ出す前に、消えようと思った。 カズにはヒロの悲しさがわかっていた。
小室はカズより先に退院した。小室は何かとカズに気を使ってくれた。小室自身、他人に気を使うなんて今までなかったことだった。 「じゃあ、又いつか会おう。又いつか。」 小室はそれだけ言うと病室を出て行った。
小室は祈っていた。カズに幸せになってもらいたいと。 カズも退院した。しかしすぐには、学校には行かず自宅で療養した。 １つたけカズは驚いたことがあった。あの父親が会社を休み、カズと一緒にいてくれたことだ。 最初は何か恥ずかしくて、何も話せずにいた。 しかし時間の経過とともに、今まで話せなかったことを沢山話した。今までの空白を埋めるように。