偽りの仲、過去への決別
夕方になると、松山や洋二、そして結衣がカズの家に毎日やってきた。 今まで遠慮して、カズの家に寄りつかなかった松山もうれしそうにカズの家に上がりこんでいた。知らない間にいろんなことが変わっていったことをカズは実感していた。
カズ達4人は街が見える寂れた公園にいつも出かけていた。松山とカズの秘密の場所だ。 洋二も結衣もその場所を気にいっていた。 夜が訪れると、街には明かりが灯しび始める。この風景がカズは好きであった。今現在たくさんの人が生きていると感じられるからだ。
「なあカズ。ヒロのことなんだけど。」 松山は言った。 「わかっているって。」 カズは言った。 「俺は馬鹿かもしれないが、今でもヒロを信じているんだ。確かにカズをけがさせたことは許せないけど。でも全てが嘘をついたとは思えないんだ。だからヒロのこと信じてやりたいんだ。」 「わかっているよ。」 カズは空を見上げた。薄暮の空に星が光っていた。
「工場の煙りが少なくなったおかげで星がよく見えるようになったなあ。」 松山は言った。 「ねえ~カズ君は目の前でヒロ君が飛び降りた時、どんな気持ちになったの。」 結衣は、目の前で起こった出来事が今でも信じられなかった。
あの時、足が震えて立っているだけで大変だった。「俺も正直怖かった。あれだけ嫌っていた奴でもとても悲しくなって……。」 洋二はあの時泣いていた。
「俺も怖かったさー。でもきっとヒロは今まで精一杯生きてきたんじゃないかと思ったんだ。」 カズは言った。 「多分時間が経つとヒロのこと思い出すことがなくなるけど、俺は忘れない。」 松山は言った。
「そうだね。今はいないけど、ヒロも俺達の仲間だよ。」 結衣はカズの手を軽く握った。カズも握り返した。 4人は空を見上げた。 12歳の冬が終わろうとしていた。
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