偽りの仲、過去への決別

カズの両親は、夫婦仲が悪くなり、母親は自分の実家に帰ってしまった。 別に今に始まった夫婦仲の悪さではないので、カズはあまり気にならなかった。
一緒に住んでいる兄も相変わらず無愛想で、中学校に通う以外は部屋に閉じこもっていた。 父親は社宅に住んでいる関係で、世間体を気にしていた。母親がいない理由を病気だと、偽って、周りの人達に言っていた。 そんな父親を見てもカズは、内心どうでもよかった。
両親が嫌いなわけではなかった。二人が一緒だといつも口喧嘩から始まり、その後、長い沈黙が続くのがカズはとても嫌だった。 喧嘩の原因は、父親の浮気などではなかった。仕事で家にいることが少なく、母親の苛立ちの原因は、ここにあった。
子育てや家事の負担が母親一人にのしかかることが耐えられなくなったのだ。 カズが物心がついたころから家を空けることが多くなった。習い事といっては夜出かけることが多くなり、カズや兄への関心は薄れていった。
父親が仕事で夜遅く帰ってきても、母親がいないことが、日常になっていた。 最初の頃は、父親は母親の帰りを待っていたが、いつの間にか止めていた。
なぜなら母親の浮気を知ってしまったからだ。 母親は別に隠しもせず 、平然としていた。
カズにもわかっていた。母親の化粧が日に日に派手になっていくのが。 でもカズはなぜか動揺はしなかった。カズはカズなりに、母親のやるせない気持ちが理解できていた。
結局、カズや兄には何も告げず、家から母親の姿が消えていた。
こうなる事が、なぜかカズにはわかっていた。 辛いけど受け入れなければいけない現実を。 別に母親に恨みを抱く感情なんで起こらなかった自分に、カズは驚きを感じていた。
でも本音は、カズの目の前で争いごとや、冷たい家庭に拒否反応を示していた事だ。