姫さんの奴隷様っ!
天候は今日という日を心から祝福しているようだった。
雲一つない快晴の空の下、深紅の絨毯は、城門から王が鎮座する豪奢な椅子まで長蛇の列を為す。
見上げる程の高みに腰掛けた一国の王に礼を尽くすべく、俺は片膝をつき、低頭する。
金の冠に、首飾り。
式典用のきらびやかな服に身を包んだ王とその臣下達が、それを見守る。
とはいえ、大臣達の右腕には死者を追悼する喪章が光る。それは、帝国との戦争で死んでいった者達へ捧げる祈りだった。
本日の立役者である俺はというと、絢爛に着飾ったその場にはそぐわない藍色の羽織りと着物を身に纏っていた。――どうしても着たかった、亡き親父の一張羅を。
だって、そうだろう?
自らを飾り立てようとは思わない。例え、誰に蔑まれたとしても、自身を偽る無意味な足枷は、俺には必要ないのだから。
王が鎮座していた椅子から立ち上がると、歓声が巻き起こる。
嗚呼、民にも、官僚にも。皆に称賛された王が、『気弱な王子』だった日が懐かしい。
王は、片手を掲げ、それを制止する。歓声が静寂に変わる瞬間だった。そして、高々と天に向かい、宣言する。
「……先の戦では、我等は見事、勝利を収めた。今、この場で、皆に誓おう。二度と、彼の帝国に屈することはないと――」
再び静寂が歓喜に変わる時、いやがおうでも奴の姿が目に浮かぶ。
掛け替えのない親友であり、戦友でもあった彼の壮絶な最後は、まだ、瞳の奥に焼き付いて消えやしない。消える筈もない。
多くのモノを失った。
大切なモノも失った。
兵士として駆り出され、死を遂げた民の嘆き。長年に渡る戦で荒廃した土地。
そして勝利と引き換えに、名誉ある死を選択した友の名を、選択させた者の名を、俺は決して忘れない。