正しい恋愛処方箋
「君、…名前は?」
「っ……妃毬、橘柳 妃毬」
「妃毬ちゃん、ね。聞かせてくれない?君が知ってるあの時の事」
妃毬と言うのか。伊織は妃毬さんの肩を支えてソファーに座らせて、話しを施す。
真実はいつだって闇の中にある
「五年前、彼女が妊娠して流産したのは本当?」
伊織の言葉に頷くだけの彼女。
俺の隣にいる美樹ちゃんは肩を震わせながら俯いて何も話さない。
「じゃあ……奏多ちゃんが彼女の恋人に妊娠を話したのは?」
「…本当です、でも」
「うん。……最後に、奏多ちゃんが彼女を階段から突き落としたのは?」
核心に迫るように伊織から紡がれた言葉に妃毬さんは目を大きく見開いて、大きく頭を振る。
「そんな訳無い!だってあの時階段から落ちたのはっ…美樹じゃなくて奏多だもの!」
なんだって?
あの時、階段から落ちて流産したと話した美樹ちゃん。告げ口をした女に落とされた、と。
それが間違い?だとしたら奏多は何も悪くないじゃないか。
「どう言う事だ…?俺は奏多が彼女を」
「そんな訳あるはずない!奏多はあれで死にかけたのよ!?何日も目を覚まさないでっ…意識が戻ってからだってずっと自分が悪いんだって、今だってずっと自分を悪者にしてるのに!」
今までの俺は何をしていたんだろうか。
この世で唯一の人を悲しませ、絶望させて、消えたいと望むほどに苦しめた。
「流産したのだって…美樹が自分で中絶したのに!」
「ちょっと待って…妃毬ちゃん、それ本当?」
何より一番に反応したのは伊織で、俺は声すら出せない。
「そうよ…、美樹の恋人って高校の教師で……不倫だった。しかもお互いにただの火遊び!」
不倫、と言う言葉に思わず伊織を見れば険しい表情で美樹ちゃんを睨みつけている。
相変わらず、彼女は何も言わずにただ俯き、肩を震わせ拳を握りしめていた。