勝利の女神になりたいのッ!~第2部~
自虐的って言われてハッとしたけど同時にやっぱり悲しい気持ちが押し寄せてくる。
泣いちゃいけないって堪えようと努力するのに視界はどんどん歪んでいって、せめて涙をこぼさないように目を大きく開けたまま瞬きを我慢した。
「姫様、そんなに悲しい顔をしないで下さい。
我らが苛めているみたいではありませんか。」
眉をハの字に下げて困ったような表情で桔梗さんが話しかけてきた。
手には手拭いが握られていて、私の目元に優しく押し付けてくる。
「ごめんなさい。」
桔梗さんの優しい振る舞いと手拭いで覆われた安心感から私の瞳からは涙がポロポロと零れ落ちてしまった。
「そのままで聞いて下さい。」
目元を押さえたまま桔梗さんの体の中にすっぽりと納められた私の体。
私の前に座る桔梗さんに抱きしめられるような体制に少しの驚きと、だけど彼の優しい声に安心できた。
「姫様が客人をもてなすのを殿は快く思われないのですよ。
それは姫様を殿以外の殿方に近付けたくないという、姫様を大切に思われるお心からです。」
「だから今の桔梗の行動も殿に見つかったら厄介なんだけど?」
「紅葉は少し黙っていなさい!」
真剣な桔梗さんと彼を茶化すような口調の紅葉さんの会話。
「ちぇっ…。」
普段は言い合いが始まるのに紅葉さんは桔梗さんの迫力に押されて小さな舌打ちをして口を噤んだ。
「姫様は殿にとても大切に想われているのですよ?
誰の目にも触れさせたくないと思うほどに…。
そんな姫様が客人をもてなすために酌の一つでもしてごらんなさい…。」
最後までハッキリと言葉を紡ぐのを止めた桔梗さん。
だけど桔梗さんの代わりに紅葉さんがその言葉の先を紡いだ。
「不機嫌になるの間違いないね。」
普段は言い合いばかりなのに息はピッタリで、私を納得させるには十分だった。