勝利の女神になりたいのッ!~第2部~
佐和さんの腕の中で彼の体温を感じても体の震えは止まらなかった。
「紫衣、芽衣ちゃんと一緒に先に部屋に入っていなさい。」
穏やかだけど有無を言わせない強さを持った彼の言葉。
ドアの前から動けない私をギュッと抱きしめた後、佐和さんは体の向きをくるりと変えて私に背中を向けた。
「紫衣、中でお茶の準備して待ってようね。」
玄関の扉から離れていく佐和さんの代わりに芽衣ちゃんに私の背後から声を掛けられ、私は振り向く事も出来ずに、そのまま彼女と一緒に扉をくぐった。
「紫衣、どこに逃げても俺は追いかけていくよ。」
そして扉が閉まる音をかき消すように掛けられた良君の声に玄関でしゃがみ込んだ私は芽衣ちゃんに抱えられた状態で部屋に入った。
リビングへ続く廊下を2人でふらふらと歩きながら進み、ガラス張りの扉をくぐると懐かしい我が家。
家は私が出て行ったまま、何も変わることなく存在していた。
「懐かしいね。」
私をソファーまで誘導し座らせた後、彼女も私の横に腰をおろしてテーブルの上に置いてあるテレビのリモコンに手を伸ばす。
「おじさんも相変わらずだね。」
そんな風に呟きながら芽衣ちゃんはくすくすと笑いを漏らした。
きっとテレビの主電源が切れてないことを言ってるんだろう。
リモコンを操作して芽衣ちゃんはテレビの電源を入れた。
「おじさん、昔からリモコンでしかテレビの操作しなかったよね?」
ニコリと笑いながら芽衣ちゃんはチャンネルをくるくるとリモコンで変えていく。
芽衣ちゃんの言うようにお父さんはテレビの主電源を絶対に切らない人だった。
お母さんが切っていたら怒る位にこだわりを持っていた。
「変わってない所を見つけたら、なんだか安心するね。」
芽衣ちゃんの優しい笑顔と言葉に私は彼女を見て微笑んだ。