勝利の女神になりたいのッ!~第2部~
「何って何?」
「え?」
「特訓中なんだろ?」
「……………。」
「それに合わせてただけなんだけど?」
不愉快だと言わんばかりに表情を歪めて話す紅葉さんに私は返す言葉もなく、ただ体を小さくして俯いた。
「特訓は椿だけだと思った?」
「はい。」
「甘いね、紫衣様は…。」
勝ち誇ったような態度で告げられる紅葉さんの言葉になんだかふつふつと怒りが込み上げてくる。
「窮屈だからせめて紅葉さんくらいは普通に接して欲しかったな。」
怒りをグッと押し込めて素直な気持ちを口にすると紅葉さんは私から視線を逸らせてぶっきらぼうに言葉を紡いだ。
「もうすぐ朱里が着替えの為に部屋に来るから準備してろよ。
その後朝餉だからな。
もたもたしたたら昨日みたいに朝餉は1人で済ませることになるぞ。」
先に着替えを済ませるって、小袖ではないって事。
でも三成と一緒に朝ご飯は食べれるんだと思うと憂鬱な気分もちょっぴり晴れる。
「それから、特訓は身につけば終わりになるんだから窮屈だと思うなら早く身につけることだな。」
部屋の襖の前で振り返って告げられた紅葉さんの言葉。
尤もすぎて反論のしようもない。
「承知いたしました。」
私は三つ指をついて頭を深々と下げながら紅葉さんの背中に語りかけた。
もちろん顔が見えないのを良いことに舌を出してちょっとばかり不満な気持ちを出しながら…。
パタンと閉められた襖の音を聞いて頭を上げると襖の向こうからまるでタイミングを見計らったようにして紅葉さんの声が聞こえた。
「どうせ舌でも出して悪態ついてるんだろ?」
そして普段は聞こえないのにわざとらしく足音を響かせながら紅葉さんが遠ざかっていく。
その足音を聞きながらぶるりと体が震えた。
「侮れない…。」
ポツリと呟く声は部屋の静けさに吸い込まれ、私は誰にも勝てないのだと思い知った。