勝利の女神になりたいのッ!~第2部~
「あの幼かった紫衣が今では立派な殿の奥方になり、母になり俺は養父としてこんなに幸せなことはない。」
私は左近さんに怒ってるのに左近さんは遠い目をして言葉を紡ぐ。
「本当に…。もう立派な奥方様になられて…。」
朱里さんまで同じ様に遠くを見つめている。
なんだか恥ずかしくて私は2人から視線を逸らせた。
「もうこれで何も心配することはない。」
言葉を落として立ち上がった左近さん。
そのまま襖に手を掛けたけど、
「ちょっと待って!」
私は彼を引き止めた。
途端に左近さんの肩がビクリと跳ね上がって、
「まだ何か?」
振り向きもせずに返される言葉は僅かに震えている。
うまく誤魔化したつもりでしょうけど、
「まだ終わってないわ。」
私は左近さんの背中に声を掛けた。
「左近様、紫衣の成長を喜びましょう。」
音も立てずに立ち上がりスルスルと左近さんの側まで行って朱里さんは左近さんの手を取った。
そのまま朱里さんに手を引かれ、元いた位置に腰を下ろす左近さん。
とっても気まずそうな表情をしている。
「では、私は3人を呼んで参ります。」
そんな言葉を残して退出した朱里さん。
襖がパタリと閉まる音が響いた後は訪れる静寂。
向かい合って座る左近さんと私の間には沈黙が落ちていた。
けれど私はそれを居心地が悪いとは思わない。
左近さんはどうかはわからないけど…。
この静寂を私は心地いいと感じていた。