勝利の女神になりたいのッ!~第2部~
佐和さんの言葉の意味を考えている私の耳に響くコンコンと扉を叩く音に思考が止まった。
音が鳴った瞬間大きなため息が佐和さんの唇から漏れたからだ。
佐和さんに視線を向けると額に掌をあて、ちょっぴり俯き加減で表情が見えない。
「あの…」
誰か訪ねて来たのでは?という言葉を続ける前に私の唇は佐和さんに塞がれて、
「厄介な事になった。」
私から離れながら言葉を落とす。
その間もノックの音は鳴り止まない。
そして佐和さんは私の顔の近く、唇が触れそうな程の至近距離から私を真っすぐ射抜くように見つめてから大きくため息を吐き出した。
「多分父さんだ。
面倒な人だけど少しの間我慢してくれ。」
頬を佐和さんの暖かい掌で覆われてぬくもりを感じた後佐和さんはソファーから立ち上がった。
そして真っすぐ扉に向かう佐和さん。
私は佐和さんの後ろ姿を見つめながらドキドキと騒ぐ胸にソッと触れた。
突然大切な人のお父さんに逢う事への緊張。
急な事で気が動転している。
ソファーから立ち上がり、背筋を伸ばして扉に目を向けてから深呼吸をした。
佐和さんの指が鍵に触れ、ゆっくりとドアが開いた。
ピリピリと緊張が高まる私の視線の先では扉が急に勢いよく開き、佐和さんが床に尻餅をつく姿が瞳に飛び込んできた。
「……っツーー…」
頭を抑えながら床に倒れ込む佐和さん。
扉が開いた時に吹き飛ばされたようだ。
唖然としたまま動けない私の目に映るのは痛みに震える佐和さんの背中と、その佐和さんを跨ぐようなして私に向かって一直線に進んでくる男性の姿で、
「初めまして、石野です。
いやぁー、可愛いお嬢さだ。
佐和には勿体無い。
どうですか?
今夜2人っきりでこのホテルの最上階で夜景を見ながら食事でも…」