勝利の女神になりたいのッ!~第2部~


「今夜は無礼講で楽しく飲もうぞ」


宴も中盤に差し掛かると緊張した空気がお酒の力を借りてゆるりとした空気に変わりつつあった。


なにより部屋の緊張を柔らかくしたのは秀吉の言葉で、ずっとにこやかに皆にお酒をすすめては大きな声を張り上げて会話を楽しみ、大声で豪快に笑っていた。


後に天下人になるお人だとわかっていても私自身警戒心も緊張感もするすると溶かされていった。


「紫衣殿もいかがかな?」


重家が泣いて場を乱すことを考え私の席は入口に一番近い三成とは離れた席についていた。


それは重家を口実に少し招待した男性陣から離しておいて、いつでも部屋から逃げることができるようにと紅葉さんたちの配慮から決められた。


けれど、秀吉は席が離れていても関係ないように動き回り、私にも何度もお酒を勧めてくれる。


「奥方様はお酒は召し上がることができませんので代わりに私が...」


そのつど助け船を出してくれるのは桔梗さんで私の代わりに何度も杯に注がれたお酒を飲み干している。


普通なら母乳を飲ませているから授乳中の母親にお酒を勧めるなんて非常識だと思われるけど、乳母がいるこの時代には関係ないらしい。


「少しは飲んで下さらんか」


断り続ける桔梗さんではなく私に直接問いかける秀吉。


桔梗さんもさすがに無視された上に私に直接詰め寄る秀吉に口を挟むことは出来ない。


どうしたらいい?


ここは飲まなくても杯を受け取り、一口だけ口をつける真似事で誤魔化す?


それともキッパリ断る?

どっちがいいのかサッパリわからないよ…。
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