ほっぺた以上くちびる未満
◇
「おー、おかえり」
「……なんでいるの?」
「なんで?
いたらあかんの?」
「だってここ私の部屋なんだけど」
「ええやん」
「私はヤ」
あたかも自分の部屋であるかのように、私のベッドでくつろいでいる彼。
私にはちょっと大きすぎるベッドが、背の高い彼が寝ると小さく見える。
「だってなァ、今日うち誰もおらへんねん。
ボク、寂しゅーて寂しゅーて……」
「……普段は1人暮らしのくせに」
持ったままだった重いカバンをドサッと机の上に置く。
「なんや、久しぶりなのにえらい冷たいやないの」
「元からだよ。
それより早く出てって、着替えるから」
制服のリボンを外しながら振り返ると、こっちを見ていた彼と目が合った。
「……っ」
やっぱりだめだ……。
何年経っても全然慣れない。
昔から苦手なんだ、この人。
齋藤スズ。
私の5歳年上の幼なじみ。