雪情
【存在せぬものー6】


戸を閉めると
ほとんど真っ暗闇に
近い状態だが、

何とか
周りが見える程であった






こんな薄暗い中
川上は
殺人鬼を待ち続けて
いたのだ。


余程
心細かったに違いない。






「ねえ、
刑事さんその格好
寒くないの?」





田崎は
床に腰を下ろすと
答えた。






「今は
外よりはマシだがね」





「ごめんなさいね……
私のために」






川上が心配そうに
言った。






「川上さんは
寒くないですかな?

よければ家から
何か暖かい毛布やら
持ってきますが……」






「今はまだいいわ。

ほしくなったら頼むわね

刑事さん
何か面白い話を
してくれない?」







急にそう言われると
困るものだ。


何が面白い話なのか
田崎は分からなかった。






「面白い話と
いいますと?

ワシは
そんな女性が楽しむ話は
持っておらんよ」






「仕事のことよ。

刑事さんと
話す機会なんて
滅多にないでしょう?

聞いてみたいわ」






仕事のこと?




田崎はそんなことが
面白い話なのか、

疑問に感じた。






自分からしてみれば、
こんなつまらない話は
ないと思った。







「面白くありませんぞ?」






「それでもいいから、
何か聞かせて」






川上は
何でも良いので
誰かと話したかったので
ある。






誰も側にいなくて
薄暗い中
たった一人で小屋に
居たので、

田崎の仕事話を
聞くだけでも、
十分面白味があった。






「では……
何から話すか………」





と田崎は考え込んだ
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