雪情
【近付く影ー6】


にしても、
ここから飛び降りる
つもりだったのか?




だが怪我をする
高さではないし、
雪という
クッションがある。




こんなことを
思いつくとは、
まったく呆れたやつだ…




白井を連れ
田崎は一階に戻った。




そして、
白井は畳に腰を下ろした




「残念だったな。
さっきの猿芝居」




田崎は
座った白井を
見下ろしながら言った。




少し沈黙の後
白井が口を開く。




「……どうして嘘だと
気付いたんだ?」




「音がしたのに
声がしたなど
矛盾したことを言うし、
お前の嘘は顔に出やすい

銃口むけても
動じない性格のお前が、
雪男を見たくらいじゃ
あんなに取り乱しは
しないよ」




「なるほどな……
なかなかの洞察力だ」




「しかし、今考えると、
雪の中で
包丁を持っている
雪男なんて
発想が幼稚だな」




田崎は
軽く笑いながら言った。




「だが
雪男がいるのは本当だぜ」




嘘をついていない顔…

本当に分かりやすい男だ




「次はワシからの質問だ」




田崎はそう言いながら
白井の隣に腰を下ろした




「さっきの登山の途中
吹雪に遭い、
ワシから逃げ出す
チャンスはいくらでも
あったのに、
なぜ今頃になって
逃げ出そうとしたのかね?」




「どーもこーもないだろ

手錠を外さなきゃ
街に戻れないに
決まっているだろ?
鍵を解いてくれる
知り合いもいないしな」




やはり、
ここまで素直に
ついて来たのは
鍵が目的か……




「なら、
逃げて、その後
どうするつもりかね?」




「そ、それは……」




田崎の質問に
白井は煮詰まった。




それでも田崎は続けて




「やはり
刑務所に入れられて
暮らすのが、
嫌だようだな」
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