雪情
【殺人の目ー3】


もし
ここから無事下山し、
小川に白井の素性が
知られようなら、

殴られた事を
訴えられても
おかしくはない。




いくら正当防衛で、
その上
先に小川が仕掛けた
喧嘩でも、

罪が重いと
思われるのは
白井の方である。




それはもちろん
犯罪者の主張など、
正しい事でも
聞いてもらえない
からである。




しかし
白井は訴えられるとは
思わなかった。





「それは大丈夫だ。

見てみろよアイツの目。

スッカリ
怯えているだろ」





田崎は
小川の方を見てみた。




その目は
怯えた動物の目であり、

小川の
あの気迫ある
雰囲気さえも、

今は全くなかった。




人は
明らかに力の差を
見せ付けられると、
こうも脆いのだろうか?




「な、
これでもうアイツは
ここでは暴れたり、

反発したりすることは
ないよ」




確かに今の様子を見ると

もう白井に
チョッカイは
出さないだろう。




例え
白井の素性が分かろうと

もし訴えようものなら
出所した白井に
復讐されると小川は思い

何も仕掛けてこない
という事だ。




もちろん、
そんなことをしても
白井は復讐なんて事は
しない。




白井の性格の
片鱗しか見ていない
小川は、

白井が凶暴だと
思い込んでいるからで
あった。




手当ての受けている
小川を見て、
田崎は言った。




「しかし、
ヒドくやったな白井よ」




「ヒドくって
一発だけだろう?

人聞きの悪い」




田崎は腕を組みながら、


「あまり
暴力は好かんね」




と言うと
白井は反省しているの
だろうか?

元気がなさげに答えた。




「…分かっている。

俺だって、
できれば暴力は
振るいたくなかったよ。

でも
ここで鬼にならなきゃ、
アイツを止めることは
できないからさ…」
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