雪情
【白井の過去ー7】


白井の言っている事は

どれも
警察の取り調べ調書には
書いていなかった。






その事から、
白井に
彼女がいたと言う情報も

田崎の耳に
入らなかったのである。






いかに白井は
誰にも信じて
もらえなかったか…



いかに
けなされ続けたのかが、

田崎には
手に取るように分かった







「それで逆上して
警察を殴り飛ばし、

署から逃げたんじゃな?」







「ああ、
無我夢中で気が付いたら
外にいたよ。

警察も、
まさか取り逃がすとは
思わなかっただろう?」







「そうだな、
警棒で殴っても
怯むことなく蹴散らして
行ったそうじゃないか。

過去にはない異例だよ」







そこで白井は
凶暴犯と定められ、

警察は
腕前のある田崎を
捜査員としたのである。







「…本当は

事故の話なんて
警察にしたくなかった。

だが俺は少しでも
刑を軽くして、
一年以内に
刑務所を出なければ
ならなかったんだ。

アレをする為にな…」







前にも白井の言っていた

「アレ」である。







「白井よ、
前も言っていたが
アレとは…?」







「…ここまで言えば
分かるだろう?

アイツの
墓参りの事さ…」







「あ…」







それは、
死んでしまった彼女の
墓参りであった。







「昔からアイツは
寂しがりでさ……

一年間以上
行かなかったら
寂しがるだろう?」






と白井は再び窓を眺めた







そうか、
一年に一回は
必ず彼女の命日は来る。







だから白井は、
刑務所に入るのは

一年以内と
こだわっていたのか。






白井が
あの村にいたのも、

彼女の墓が
近いからであった。
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