雪情
【白井の過去ー11】


「…それはなんだ?」







「殺人自体だ……。

いくら
大事な人を失っても、
人を殺してはイカンよ…」







確かに相手は憎いだろう






法で裁くより
自分自身の手で
裁きたいであろう。





しかし、
殺害した先には
何があるのだろう?






何もない、空虚なものだ







そんなことをしても
彼女は
生き返らないのだ……







「………」







その言葉の意味は
分かっていた。







だから、
白井は何も言えなく
なってしまったのだ。







何故、
こんな悲しい出来事が
起きたのだろうか?






それさえなければ、
白井は
殺人を犯す
人間ではなのだ。







「復讐をしても、
天国の彼女は
微笑んではくれんよ…」






分かりきったセリフを…
と白井は思う。







口では簡単に言えよう。







それは、
言った本人は
同じ思いをしたことが
ないのだから。







所詮俺の悲しみなんて
誰にも分かっちゃ
くれないんだ、
と白井は思った。







「やっぱ…
…刑事は刑事だな…」






「…そう、ワシは刑事だ」







しばしの沈黙が続く。






その間、
二人は同じ窓の雪を
眺めた







刑事と犯罪者…



…二人は対立した
関係であり、

互いに和解することが
ない存在である。







そのことは、
お互い分かっていた。







しかし、
それでも白井は
言いたかった。







敵対しているはずの
相手に言いたかった。







ありがとうと
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