雪情
【雪山ー6】


こんなに寒く
我慢強い
刑事の田崎でさえ
気分は冴えないが、
いくら白井が
暖かい服を着ていると
いっても
こんな大雪での山越えは
イヤだろう、

と田崎は思っていたが

「山越えをしよう」
と田崎が言った時も
文句一つ言わず
ついてきている。




素直に言うことを
聞いているが、
田崎はこれを逆に
警戒した。




普通雪の中
ここまで来たら
少なからずとも愚痴でも
こぼすか
嫌な顔をするだろうが、

この男は
眉をピクリとすら
動かさず
素直に従っている。




大抵このような時、
犯罪者は
何かを企んでいるか
隙をみて逃げるかである




どちらにしろ
警戒は必要だ。




しかし
そんな心配をよそに
白井は別のことを
考えているらしい。




田崎は
そんなことは知らず、
しばらくして歩くと
やっと山の麓まで来た。




山道に入る道のワキには
いくつかの看板が
立っている。




その看板の一つに


「山道この先………」

と書かれていて、
そこから先は
雪で埋もれて
見えなくなっていた。




「さっきの駅員も
山道は一つしかないと
言っていたから
大丈夫だろ」

と田崎は言い
山道を
登り始めることにした。




気のせいか
雪は強くなって
きているようだ。




そのせいか
暗い山道も明るく見える




周りは木ばかりだが、
雪のおかげで森の中まで
明るい。




暗い森よりかは安心だ。




しかし
今はそんなことよりも
雪が深く、
足を止めしようとする。




体力はない田崎だが
代わりに持ち前の
根性が備わっている。




こんな山
ひと越えなど容易い
だろう。




そう強気なものの
深い雪が足を捕らえられ
容赦なく体力を
奪っていく。




雪山に慣れていない
田崎にとっては、
根性だけで
カバーできるものでは
なかった
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