比丘尼の残夢【完】
ご主人様はニヤニヤとこちらを窺うような顔をしていて、何か言わねばとは思うのだが言葉が浮かばない。


だいたい妙齢の見知らぬ男と二人きりなんて機会、こちらは初めてなのだ...。


「質問があるなら聞こうか」

こうしてみるとご主人様は整った顔をしていらして、危ない話をされたばかりと言う事もあり、赤く頬染める他はなく...。


「... ご主人様の具合が悪くなった時は、どうしたらよいのですか?」

「へ」

なにかとんちんかんなことを言ってしまっただろうか。

ご主人様は驚いた顔をして黙った。


「あのさ、お前さん... 逃げ出すとか、どんな病気か聞くとか... もっと自分の心配しなくていいの?」

だって、うつってしまったのなら仕方がない。

元々口減らしで売られたのだ。

もっと山奥の村だったり、もう少し昔なら山に捨てられたなんて話も聞いた事がある。
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