比丘尼の残夢【完】
「検診ですよ。ご主人様」

ノックもしないでご主人様の部屋を開けて、彼はズカズカと中に入って行った。


「... おいっ、大丈夫か?」

突然医者の声に焦りが混じった。


それきっとふざけてるだけですよ... 。

言ってあげようかと思って中を覗いたら、本当にご主人様が床に蹲っていた。

それは初めて見る本当に苦しそうな表情で、額に浮かぶ玉の汗はいつもの演技には見えなかった。



火災報知機!

でも、医者はすでにここにいるのであった。

するとどうしたら、私は何をしたら?


口を押さえて立ち尽くしているしかなかった。


「君! ベッドまで運ぶ、手伝え」

「へ、へい!」

言われてようやく身体が動いた。

力の入らない大人の男が、こんなに重いとは知らなかった。

二人係でようやくベッドに移動させ、医者は黒いカバンからゴムチューブを取りだした。
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